私好みの新刊 202101

いし』 中川ひろたか/作 高畠那生/絵  アリス館 

 「石」「岩石」などというのは、虫や植物に比べると比較的子ども

たちにはなじみにくい自然物である。ただし、きっかけさえつかめば

が然子どもも興味を示す対象物でもある。それだけに、そのきっかけ

をいかに作るかが絵本の良し悪しをきめる。この本では「あさりのス

パゲッティを たべていたら いしが でてきた」ことが、そのきっ

かけとして取り上げられている。食べ物に入っていた小さな石がきっ

かけとなって、この石はどこからきたのかとお母さんと石談議が始まる。

「うみの まえは どこ」から始まり川の上流も見に行く。上流は

大きな石がごろごろしている。中流に行くと砂州などもあり少し広く

なっている所もある。ここでは水切り遊びもできる。最後に、カヌーに

乗って川を下り広い海にたどり着く。ここであのあさりのスパゲティに

あった砂を見つける。途中、ソバをこねている蕎屋さんの前を通る。石

臼が動いている。こんなところにも石が使われている。「いしが おか

ねだった じだいも ある。」そういえば、石は昔からたくさん利用さ

れてきた。近くにの神社の石段や、鳥居も石で出来ている。墓石もたく

さん見える。おかあさんの指にはめた指輪も石だ。いろんな石が意外と

生活に溶け込んでいることが分かる。

おとうさんが話した。

「ちきゅうの ひょうめんは ちかくという いしで おおわれている。」

と。ここで少し地殻、地球内部の話が簡単に書かれている。最後に

「あのとき ぼくが かんだのは つまり ちきゅうの かけらだったと

 いうことなんだなあ。」と、感心して話は終わっている。

こ難しい石の話は一切ない。幼児も含めて子どもが〈石〉に興味を持つ

第一歩が描かれている。        20206月 1,400

 

『サンゴと生きる』  中村征夫/写真・文 茅根創/監修 大空出版  

 コンパクトなサンゴの写真絵本が出た。中村さんはベテランの水中写真

家で、過去にも『ぼくの先生は東京湾』(フレーベル館)など出されている。

写真はほとんど沖縄県の海中で撮られている。各ページの語りは簡潔で小

学生でも読める。

 「サンゴと生きる」とあるのが、サンゴ礁に生きるカニが語りの主役に

なっている。サンゴ礁に生きるオオアカホシサンゴガニが語り主。初めは

主なサンゴからヤサイサンゴ、ミドリイシ、赤や青のいろんなサンゴが紹

介され。枝状のものから、平板状、円形のサンゴもある。沖縄にはざっと

400種もサンゴが棲んでいるとのこと。ここで、サンゴは石のようだけど動

物であることが書かれている。たくさんの触手を広げていて、かっちゅう

藻という動物プランクトンを主に食べて生きている。かっちゅう藻はサンゴ

のしょく手や体の中に入り込んでいる。いわば、サンゴとかっちゅう藻は共

生関係にある。魚の中には、サンゴに身を隠して身の安全を守る魚もいる。

さて、ここから話が面白くなる。サンゴに棲むかっちゅう藻は太陽の光を

受けて光合成をする。となると、かっちゅう藻は光を求めて生きているのに

サンゴが密集してくると太陽光が当たりにくくなる。かっちゅう藻が弱ると

サンゴも栄養がもらえなくなり死滅に追いやられる。ここでし烈なサンゴ間

の戦いが始まる。特別に敵を攻撃するしょく手が伸びてくる。胃の中の消化

組織(隔膜手)を外に伸ばして相手の組織や細胞を破壊することもする。

その特別なしょく手の写真や、細い隔膜手の写真がとても鮮明に映し出され

ている。サンゴの敵は、オニヒトデと海水温上昇による白化現象。なんとし

てもサンゴの白化現象はおさえたい。続いて出てくるサンゴの産卵現象の写

真も見事。夏の満月の夜に産卵は行われる。

多くの魚たちの願いでもある「ぼくたちのちっちゃな幸せをこわさないでね。」

で終わっている。             20205月刊 1,200

 

              新刊2021,02